経営者が行うべき重要な仕事のひとつが、従業員の教育です。
1人前に仕事をしてもらえるようになるために、さらに上のレベルの仕事をしてもらえるようになるために、大切なことです。
こうした教育は、OJTで行われる時もあれば、外部研修という形で行われることもあります。
今日は、この外部研修についてのお話です。
ある社員が入社しました。
社長としてはすごく期待をしていたので、いろいろと外部研修を受けてもらいました。中には高額のものもありましたが、これからを担ってくれる逸材ということで期待をして受けさせました。
ところが…。
入社して6ヶ月程度たったある日、ちょうど研修も一通り終えて、これから学んだことを活かしてガンガンと働いてもらおうと思っていたら、本人から退職届が出てきました…。
社長は激怒、この間に受けさせた研修費用総額50万円を返金させろと総務担当者に命令したわけです…。
この返金請求が正当がどうかというのが今日のテーマです。
答えから言えば、定義次第でクロ(完全違法)かグレー(微妙)に分かれるというところです。
(1)原則クロ
以下のようにしっかり定義してあってもクロです。
入社以降2年を経過しないで自己都合退職する者について、在職時に会社が費用を負担した研修があった場合には、その要した費用を返金させる。
これは、労働基準法における、強制労働に該当するというのが一般的な見解です。
2年未満で自己都合退職すれば、研修費用を自己負担しなくてはならなくなるわけです。会社がかけた研修費用が多額の場合には、実質返金が不可能と言うケースもあり、そうなると、自己都合退職が2年間できないことになってしまいます。
こうなると、2年間はそこで働くことしかできないため、結果的には強制労働を強いているに等しいということになってしまうわけです。
強制労働を禁止した理由の一つである、丁稚奉公と同じ状況になってしまうわけです。
(2)グレーなケース
グレーなケースは以下のようなケースです。グレーというのは、現状、お咎めなく運用されているが、実態はあまりクロのケースと変わらないので、前提条件が少し変わっただけで違法とされる可能性があるという意味です。
・研修への参加は自由意志(不参加を不利益取り扱いしない)
・研修費用は貸付
・研修終了後、一定期間勤務によって返済を免除
(あるいは返済額相当を給与に上乗せ)
看護師学校の費用を負担してあげて、お礼勤務的に運用されているのがこのパターンです。
ポイントとなるのは、研修への参加が自由意思であることです。
当然、自分が負担することになるかもしれない研修であれば、本人に参加するかどうかの決定権がないとおかしいことになります。
そして、研修費用はその場で与えるのではなく、とりあえず貸付で、その後返済してもらうというスタイルをとります。
『与えたものを取り返す』のと『貸しておいて返してもらう』のでは当然ハードルが全く違います。
返済を免除する際は、それが賞与に該当するといった考え方もあるようで、実務上の取扱いはそれぞれの管轄機関への確認が必要ですが、この流れであれば、
『会社が指定する研修については、自分の意思で受けたい場合、研修の費用を会社が貸してくれて、その上その後も継続して勤務していたら返さなくて良いと言ってくれる』
労働者にとって素晴らしい制度になってしまうわけです。
(3)まとめ
ポイントは『受講が強制ではないこと』『貸付→返済免除』の二つです。
受講が強制でなければ、『営業職については』等と限定することもかまいません。
ですから、今回のこの社長のケースでは、入社直後の社員に会社命令で受講指示のあった研修を断ることなどできず受講は半強制であったと思われ、貸付→返済免除の流れも説明していなかったので、研修費用を返還させることは難しいでしょう。
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